朝鮮大24-49拓殖大
みんな泣いていた。試合終了後の円陣。いつもおちゃらけている彼も、いつもふくよかな笑顔を振りまいている彼も、いつも寡黙で感情を表に出さない彼も、選手はみんな泣いていた。この光景を、ほとんどの人が訝しがるのではないだろうか。25点差。一般に僅差、接戦、惜敗とは言わない点差。泣くほど悔しがるスコアなのかと。今までの朝大ラグビー部しか知らない人は、すごい、大健闘大善戦だと褒めてくれるかもしれない。直近(3年前)の試合で60点差で負けているのだから。だが、今年の朝大ラグビー部を知る人なら、彼らの涙のわけを、意味を、痛いほどにわかるはずだ。本気で勝ちに行き、本気で勝つ気で戦った彼らの想いの丈を。

このことも、世間一般(ラグビー界)の常識からはかけ離れた夢物語と苦笑交じりに思われるのかもしれない。リーグ戦を1勝6敗の7位で終え、3部との入れ替え戦に勝って2部残留が「定位置」の大学が、1部から降格・2部の序列1位の大学に本気で勝てると思っているのかと。絶対多数、おそらく朝大ラグビー部の関係者以外の誰もが考える「ありえないまさか」を、しかし朝大ラグビー部は真面目に、真剣に「ありうる現実」否「実現可能な現実」として思い描き、なによりただのビッグマウス的フレーズにならないための厳しい準備を必死にやってきたのだ。
試合前の円陣で、共同主将の一人キムチソンが檄を飛ばす。「いいゲームしにきたんやない。勝ちに来たんや!」―
結果的に「いいゲーム」になってしまった最大の要因は、前半の「自陣でのミス→スクラムを押されペナルティー」に尽きる。タッチキック、ラインアウトからの連続トライ、スクラムトライ、スクラムからの巨漢留学生の突破。相手のトライ6本がすべて朝大のスクラムでのペナルティーを起点に生まれたもの。192㎝123㎏の№8外国人留学生を中心とした相手重量FWに、8人の平均体重が90㎏を切る朝大FWは劣勢を余儀なくされる。開始20分間で4トライを奪われるも、しかし勝つ気満々・諦め0の朝大は反撃に転じ、23分キックオフのボールを重さでは負けるFWが奪い取り、LОミンジェドンが前進、初スタメンのFLユンジヌォン(1年・東京朝高)が繋いで初トライ、反撃ののろしをあげると、

その7分後にはマイラインアウトのボールを展開、最後はFBムンミョンイルが走り切り、確固たる反撃態勢が構築される。いずれも練習で厳しく繰り返してきた会心のプレー、狙い通りのトライ!ハーフタイム、オヒョンギ監督は「今まで拓殖大からあんなアタックでトライを取れたことがなかった。君たちはそれをやったんだ。だからまだまだ出来る!自分たちのすべきことをキチンとやり切ろう!」と激励し、ベンチではいかに外国人留学生にボールを持たせないか、選手同士の意見と確認が張りつめた空気の中で飛び交い対策が練られる。誰も14―42というスコアに悲観せず、残り40分で勝ち切るんだという崇高とも思える決意が充満する。

そして見事な有言実行の後半。開始2分、右サイドを駆け上がるルーキーWTBシンイルギョンが自らキックしたボールをそのまま押さえて三つ目のトライ。30分過ぎまで一本のトライも許さず、37分には左サイドでのマイラインアウトから右に展開し走り切ったムンミョンイルが四つ目のトライ。後半は10―7で拓殖大を上回るも、悔しいノーサイドを迎える。

見事な修正と対策だった。あれだけ押されていたスクラムが押されなくなり、BKは終始走り負けることがなかった。相手のトライを観念した独走ランを、ゴールライン寸前で飛び込み防いだ、前半のルーキーWTBキムレオンと後半のCTBキムグァンス(4年)のビッグタックルも、「魂気(ホンキ)の必勝」の素晴らしい象徴だった。彼らは全員、最後まで心底魂気の本気だった。フィールドの選手もベンチも、通常は気にする「あと何分」を意識していなかったように私には思えたのだが。まだ行ける、まだ行けると誰もが思っていた矢先の唐突なノーサイドのホイッスルだったような気がしてならない。(もちろん時間通り)差をつけられてノーサイドを気にしながら走っているのでは全くない、まだまだトライを取りに行くんだ、取れるんだという一心で走っているところを、いきなり打ち切られたかのようなそんな感覚ではなかったか。負けの実感より「え?もう終わったの?」という、つっかえ棒を外されたような感覚が大きかったのではないか。文字通り一心不乱に、追いつき逆転することだけを考え走り続けていたのではなかったか。

選手には何も聞いていない。私の感覚と想像でしかない。
「君たちは確実に成長している。間違いなく朝大ラグビー部史上で一番強い。でもナイスゲームではダメなんだ。まだまだ、もっともっと成長出来る!」監督の優しくも力強い激励の後で、キムチソンが泣きながら吠えた。「俺はあきらめへんしあきらめさせへん!ついてこい!必死に、死ぬ気で準備して勝つだけや!」
私は「必死にやってきた」と書いたが、彼の、彼らの「必死」はまだ限界ではなく、チームに、己に、まだ「余地」と「隙」があるという自覚と反省が、悔しさとなって眼から溢れ出ているのだーこれまた私個人の想いであり気づきである。

キムチソンがフォワードの体重にまで言及したのには胸が締め付けられた。日本の大学に比して数多ある「環境」のハンディキャップの中で、最も大きなハンディと言えるもの。肉体の鍛錬だけでは全て補えない体重の増加を、環境のせいにするな、自己責任でやれ、なぜ出来ないんだーこんな文言は口外に出ずとも、そこまでを互いに要求し合い受け止め合う厳しさ。これもまた泣くほどの悔しさの中身なのだろう。円陣が解かれ各々のクールダウンに移っても涙と嗚咽は続いた。スパイクの紐を緩めながらすすり泣く者、真っ赤な目でグラウンドを見つめる者、「俺のせいで負けた」とうなだれるプロップの肩を「そんなことない」と言って抱くフルバック…

1部返り咲きを目指す大学に4トライを奪っての25点差負け。心の片隅に芽生えかける「よくやった」「ナイスゲーム」の類の言葉は、彼らの涙、本気で勝ちに行き叶えられなかった悔しさの前に、その熱量の前に溶けていくしかない。
そう、彼らの涙と悔しさはとてつもなく熱いのだ。
そして、だからまだまだ強くなれることを、もっともっと深く熱く心を通わせられることを確信できるのだ。
10月6日白鴎大戦。勝利の涙を、同胞学父母、ОB、朝大ラグビー部ファンの皆様と一緒に待ちたい。
