あきらめない魂は必ずや明日を拓く

日記

朝鮮大31―60中央大

一昨年の中央大戦が忘れられない。創部以来初めて2部に降格した古豪・中央大との一戦。前週の開幕試合を負傷者多数で棄権した朝大にとっての、ようやくギリギリの選手数をそろえての「開幕戦」は24―75の大敗だった。コロナ禍で試合によって有観客・無観客が設定されていて、この試合は有観客。ここがポイントで、つまりは朝大応援席―同胞学父母やОBにとって3年ぶりの生観戦となったわけである。私が忘れられないのは試合そのものより、試合後の当時2年生(現主将)キムチソンの涙とチームへの檄だったというのが正直なところだ。円陣も解かれ各自がバラバラに体をほぐしているさ中に、その涙声は唐突に響き渡った。

「同胞たちが観ている前で、こんな点差で負けたらあかんのや!しょうーがないと、当たり前と思ったらあかんのや!」

私がある種の衝撃と感銘を受けたのは、上級生を差し置いて2年生が「吠えている」ということよりも、彼(ら)の戦う目的と理由についてあらためて思い知らされたからだったと記憶している。点差自体ではなく、同胞の前でこの点差はだめだ。同胞に申し訳ない。同胞に力を、喜びを。多くの言葉を費やさずとも溢れ出る想いが涙となり檄となってほとばしるーそんな姿に私は、「朝大ラグビー部とは何なのか」という命題を突き付けられたような思いにかられていた。

あれから2年(昨季は人数がそろわず棄権・不戦敗)。悔し涙にくれた当の本人に、2年前の記憶と想いが深く刻まれていることは、試合終了後の円陣での言葉から容易く読み取れた。「4年はもう中央(大)とは出来ない」。

中央大だけではないのに。先に戦い敗れた3校にももうリーグ戦で「借り」を返すことは出来ないのに。3年ぶりの応援に駆けつけてくれた同胞の前での大敗にそれほど思うところがあったのか。確認はしない私の推測である。言葉は続く。「まだ文化になってないということや。試合の前に一生懸命練習するだけやったらあかんのや。文化にならんのや。1年間、その積み重ねの4年間どんだけするかっていうことや。その想いで4年間できなかった俺の責任やし4年の責任や。文化を作らなあかんのや。下級生には教訓にしてほしい」。

その「文化」が間違いなく育っているということを確信できる試合だったと思う。

拓殖大戦同様、一般のラグビー関係者、ファンからすれば健闘、善戦と呼ばれるスコアだからではない。2年前との点差の比較、中央大からの5トライなど数字だけを見て言うのではない。これまた拓殖大戦同様選手たちは本気で勝ちに行き、本気で悔しがった。大まかな試合の流れも似通っていた。後半は19―22。前半の失点が大きいのだ。さらに白鴎大戦まで含めて残念な共通点を探すならば、「80分間やられっぱなし」ということは全くなく「ある短い時間帯に集中・連続して失点する」ということになる。(白鴎大戦はこれが後半に来た。)野球に例えるなら、7,8イニングは押さえながらも1,2回のビッグイニング(大量失点)を作られるということか。

その原因と対策を素人の私が語れるはずもないが、ただ、「文化が育っている」と強く感じるのは、点差が開いた時に以前は頭を掠め、あるいはフィールドに薄く漂った「やっぱりダメか」の空気が今季は全くないからなのだと、嬉しい気持ちで語ることができる。

後半20分、12―55となるトライ(キック)を決められる。絶望的な点差と残り時間。ここから朝大は3トライを奪い返すのだ。23分ラインアウトからWTBシンイルギョン(1年)、5分後前半圧倒されていたスクラムからのボールをSОリジス(2年)が全員の魂を込めたトライを決める。ここからノーサイドまでの数分間は、本当に感動的な怒涛の攻撃だった。跳ね返されても跳ね返されても、ボールを奪われてもすぐに奪い返し、15人全員が体を張り続けボールを繋ぎ続け一心不乱に前に前に出続けたのだ。特筆すべきはこの時点でリザーブが全員出場していたということ。主力の上級生に数人の下級生が混ざるという編成ではなく、公式戦経験のほとんどない1年生リザーブを始めとする下級生が圧倒的多数を占めてのこの魂の連続アタックに、私はまた一つの新しい朝大ラグビー部の明日を見たのである。4年から1年まで渾然一体となった猛攻撃の「締め」のトライが主将キムチソンだったのも何かの暗示であろうか。

「負けない準備はしてきた。勝てるチームであることを証明しよう」。「してきたことにまだ結果が見合ってない。してきたことを相手のプレッシャーの中で出し切る技術とメンタルを。まだまだ成長できる。まだまだ伸びしろがあるっていうことだ」。試合前と試合後の監督の言葉である。主将が熱く語る「文化」は4年生、否、多くの卒業生たちの力と意志で立派な芽を出し、太い茎へと幹へと確実に育っている。大きな花と実をつけるための陽ざしと水と肥料を私たちが。そして多くの同胞、学父母、卒業生にお願いする次第である。

4年生諸君、苦闘続きの大学ラグビーはあと3試合。27日国学院大戦、驕ることなく自信に満ちて、ひたむきに不敵に、必死に楽しく、圧倒しよう!

(今回は写真がありません。申し訳ありません。)

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